ナマステ、インド在住のKome(@chankomeppy)です。
ムンバイはインドの中でも貧富の差が激しい街だ。
大企業のお偉いさんやボリウッド映画界のセレブリティをはじめとする上流階級の人々が華やかな世界を形成する一方で、多くの人が最低賃金(またはそれ以下)で働き、極めて原始的な家に住んでいる。家があればまだいい方で、路上生活者も多い。
ムンバイの「ドービーガート」と呼ばれる洗濯屋スラムでは、貧富の差をまじまじと見せつけられる。
そんなわけで今回は、ドービーガートへの行き方、スラムに入る際の注意点と内部の 様子、洗濯屋カーストの仕事内容についてまとめた。
▼目次はこちら (クリックして表示)
はじめに:ドービーガートとは?
ドービーガートとは「洗濯屋の仕事場(兼住居)」のことだ。
■ドービーとは?
「洗濯屋」の職業集団(ジャーティ)のこと。
■ガートとは?
一般的に川沿いに作られた階段状のスペースのことを指すが、そこで炊事や洗濯も行われるので、ここでは「洗濯をする場所」というような意味で用いられる。
インド各地にドービーガートはあるが、この記事ではムンバイのマハラクシュミにあるドービーガートを紹介する。
上の画像では、手前に広がるドービーガート(スラム)と奥の高層ビル群の対比が「ムンバイの貧富の差」を象徴しており、ドービーガートで働き、ドービーガートで生活するドービー達は社会的身分がとても低いことが分かる。
では、一体どれくらい低い身分なのだろうか?
ドービーガートとカースト制度
インドのカースト制度では、全ての人々は4つのヴァルナ(①バラモン・②クシャトリヤ・③ヴァイシャ・④シュードラ)とヴァルナに属すことができないダリット(不可触民)に分けられる。
人間はヴァルナという以下の4つの基本種姓に区分される。
- バラモン
宗教的な支配者階級(司祭) - クシャトリヤ
政治的・軍事的支配者階級(王族・武士) - ヴァイシャ
庶民階級(商人) - シュードラ
被支配者階級(奴隷)
---カースト外---
不可触民これら4階級(ヴァルナ)に属さない人々
「死」や「血」、「体からの分泌物」といった❝ 穢れ ❞に触れる職業は、身分の低い不可触民の職業だ。
人間の汗や体液が付着した洗濯物は❝ 穢れ ❞とみなされ、不可触民のドービーがこれに従事した。
ただし、動物の血に触れる皮革製品の労働者(チャルマール)や街路のゴミや動物の糞尿の清掃人(バンギ―)、火葬に携わる死体の世話係(ドム)等と比較すると穢れの度合いが少ないことから、不可触民の中では上位グループに属している。
アクセス
ドービーガートはムンバイ南部エリアに位置する。
最寄駅はムンバイ郊外鉄道ウエスタンラインのマハラクシュミ駅(Mahalakshmi St.)で、 駅からドービーガートまでは歩いてすぐ。
▼ドービーガートの場所はこちら
Dhobi Ghat
住所:1, Anandilal P Marg, Dhobi Ghat, Shanti Nagar, Lower Parel, Mumbai, Maharashtra 400011
Website:なし
ドービーガートの近くには、ムンバイのモンサンミッシェルと呼ばれる、海に浮かぶお墓「ハジアリ霊廟」があり、タクシーで10分弱、徒歩だと20分程度で行けるので、一緒に訪れると楽ちん♪
▼ハジアリ霊廟についてはこちらの記事で詳しくまとめているよ!
ドービーガートへ!
マハラクシュミ駅を降りて陸橋の方へ歩いていくと、左手にドービーガートが広がっている。
ドービーガートはイギリス植民地時代の1890年に設立された、歴史ある洗濯場だ。洗濯乾燥機の普及により規模は縮小しているそうだが、現在でもムンバイ中から毎日数十万着の衣類がここに集まり、その年間売上高は10億ルピー(約15億円)超にのぼるという。スラム経済は侮れない。
2011年には「一か所で同時に手洗いで洗濯する人数が世界最多(496人)」としてギネスブックに掲載されたこともあり、世界最大級の屋外洗濯場としてムンバイの観光名所の一つとなっている。
▼ギネス認定時のFacebookの投稿
展望デッキから見物
2019年4月に橋の上に展望デッキができ、ドービーガートの中に入らなくても、のぞき込めば内部の様子が見えるようになった。
内部の様子が外から丸見えだなんて、プライバシーがないじゃない!
と思ったのだが、こちらの記事のインタビューで、この道38年のベテラン洗濯屋さんのおじさんは「展望台からのライトが夜間の作業時に助かっている」と、満足しているご様子。
外国人の私の心配は、余計なお世話だった。
さて、展望デッキからドービーガートの内部を見渡せるので、十分満足だろう。
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今の私なら満足できるが、若かりし頃の私は満足できず(当時は展望デッキなかったし)、
「スラムの中に入ってみたい!」と思った。
ドービーガートに侵入
ドビーガートに進入する際の注意点
というわけで、ドービーガートに侵入するのだが、これは危険を伴う行動であるということを十分に理解する必要がある。
- 不潔で至る所で蚊が繁殖しており、マラリアやデング熱に感染する恐れがある。
- 違法建築だらけなので、それが崩壊して怪我をする恐れがある。
- 教養のないスラムの住民とトラブルを起こす恐れがある。
洗濯場なのであちこちに水場があるが、そこにボウフラが大量発生する。モンスーン(雨季)の時期になると、ドービーガートではマラリヤやデング熱が毎年流行、多くの人が近くの病院に運ばれるという。
自己責任です。
ドービーガート内部への行き方
ドービーガート内部へ行くためには、展望デッキ横にある階段を下っていく。
▼階段下はこんな感じ。
ドービーガートは人々の仕事・生活の場だ。遺跡でもなんでもないので入場料はかからない。しかし99%の確率で、入り口で「ガイドをするよ」と声をかけられたり、「入場料を払わないとダメだ」と言われるだろう。
実際に内部は迷路のようなので(スラムあるある)、ガイドをお願いするべきだ(と個人的には思う)。
ガイド料や入場料の相場は100ルピー~500ルピー。
なぜこんなに差があるのかというと・・・どれだけなめられているかによりけり。
階段を下りてすぐの個人商店の前にあるメインの入り口は、吹っ掛けられる可能性が高いのでスルーし、角を曲がって肉屋・ゴミ集積場の前のドービーガートの住人用の入り口から入ると、トラブルが少ない気がする。(気がするだけ。)
というのも、私はこれまでゴミ集積場側の入り口から入って、一度もお金を要求されたことがない。たまたま運がよかっただけなのかもしれないが、多くの観光客がメインの入り口を目指すため、そこに自称ガイドや自称ボスがたむろしてるのかも。
ゴミ集積場側の入り口は穴場
ではいざ中へ!
ドービーガート内部の様子
7000人超のドービーによる分業
ドービーガートでは、毎日18~20時間、7000人を超えるドービーが洗濯、漂白、染色、脱水、乾燥、アイロンがけ、折り畳み、配送、といった業務を分業で行っている。
その光景を間近で見ると圧巻で、まるで大人の社会科見学。
衣類の手洗い
少年が洗濯場の案内をしてくれた。
手洗い作業は基本的に午前中に行われる。
私が訪問したのは午後だったので、手洗い作業はすでに終了していたが、少年はわざわざデモンストレーションしてくれた。
コンクリートの囲いの中に水と洗剤を入れてバシャバシャと衣類を洗い、コンクリートに強く打ち付けることで脱水する。
地面を流れる水はすごい色をしている。聞くところによると、かなり強力な洗剤を使っているようだ。
別日の午前中に伺ってみると、洗濯物を手洗いしていたが、どさくさに紛れて入浴している人もいた(写真奥)。洗濯して濡れたからついでに自分も入浴する、というのは合理的ではある。
日本で「衣類の手洗い」といえば、デリケートな素材のものを丁寧に洗うイメージがあるが、ここドービーガートでは、 大胆に、効率よく、衣類へのダメージは考慮しないでごしごしバンバン力強く洗う。
全自動洗濯機・乾燥機もある
一部の裕福なドービーは大型の業務用洗濯機・乾燥機を使用している。全て手作業で行われていると思われがちだが、ここにも機械化の波はきている。
少年が「このボタンを押すんだよ!」と使い方を教えてくれた。
ドービーガートの主要顧客は、近隣のローカルクリーニング店や衣料品ディーラー、結婚式のデコレーター・ケータリング、中規模のホテルなど。
衣類へのダメージを考えない大胆な手法で洗濯するにも関わらず、顧客が絶えない理由は、その安さだ。業者が注文する場合、サリー1枚あたり5ルピー(約8円)で洗濯してくれるという。それなりの枚数が必要にはなると思うが、1枚10円以下!激安だ。
一般の個人が洗濯物を直接持ち込むこともできるようだが、その場合はシャツやズボン1枚あたり50ルピー程度(約75円)、衣類のダメージを考慮すると高いような気もする。
柄、色ごとに分けて乾燥
手洗いされた衣類は、色や種類、依頼主ごとに分けて屋根の上で自然乾燥する。
▼チェックシャツのコーナー。
制服でもなさそうだし、なぜこんなに同じ柄のシャツが・・・
どうやら、これは「新品」として世の中にでていく「中古品」らしい... (_)!!!
衣料品ディーラーが古着をまとめて仕入れて、ドービーガートで汚れを落として新品として販売しているそうだ。路上で格安で売られている衣服などは、もしかしたらこういうビジネスモデルなのかもしれない。。。
▼デニムのコーナー
どれも似たようなデニムパンツだが、どこにも目印となるようなものがない。一体どうやって分別しているのだろう?配達ミスが起きないのかどうか、キニナル。
アイロンがけ
昼間でも薄暗い屋内で、もくもくとアイロンがけをするおじさん達。私をまるで空気のように扱う、仕事熱心な方々。
その他いろいろな写真
▼近隣のクリーニング店から届いたサリーを仕分けしている様子
▼おしゃべりを楽しむ子供たち
▼洗濯物の中を駆け抜ける子供
▼ドービーガートで生活する家族
さいごに
誰もやりたがらない、長時間の肉体労働。穢れたものに触れなければいけないお仕事。ドービーに生まれたら、一生ドービー。洗濯屋以外の選択肢がない。
そんな人生つらい・・・
と私なら思うが、ここで出会った人々はみんな仕事に一生懸命で、笑顔が素敵で、純粋だった。
人それぞれ幸せの基準は違うと強く感じた。
カーストによる差別は法律で禁止されているが、社会慣習として今でも根強く残っている。
ドービーガートにインド人観光客がおらず外国人ばかりなのは、そういうことなのよね。うんうん。
この記事が、インドを旅行する方のお役に立てばうれしい限りです。
参考にした記事:Did you know Mumbai's Dhobi Ghat still makes Rs 100 crore a year?
- シャンタラム
リンク
- ぼくと1ルピーの神様(スラムドッグミリオネアの原作)
リンク
- 地球の歩き方(2020~21)
リンク