ナマステ、インド在住のKome(@chankomeppy)です。
ムンバイの近くに「エレファンタ島」という小さな島がある。
この島には世界遺産に登録されている「エレファンタ島石窟寺院群」があり、その歴史はいまも多くが謎に包まれている。
今回は前編と後編に分けてお届け。
- 石窟寺院(第1窟)にあるシヴァ神の彫刻
前編でお伝えした通り、エレファンタ島にある石窟寺院の第1窟にはシヴァ神が祀られており、様々な姿のシヴァ神や、シヴァ神にまつわる神話の場面を描く彫刻がほどこされている。
この記事では、第1窟で見ることができるシヴァ神の彫刻についてご紹介。
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はじめに:シヴァ神とは?
シヴァ神とは、ヒンドゥー教の最高神のうちの1人で、破壊と再生の神様。
ヒンドゥー教の最高神とは、ブラフマー神、ヴィシュヌ神、シヴァ神の3人組。
- 創造神 ブラフマー神
- 維持神 ヴィシュヌ神
- 破壊神 シヴァ神
ブラフマー神が世界を創り、ヴィシュヌ神が世界を維持し、シヴァ神が世界を破壊し再生するという役割ではあるが、宗派によってバリエーションは様々。
これらの最高神が持つ①創造、②維持、③破壊・再生という3つの役割が一体となり神格化されたものは、三神一体(トリムールティ)といわれる。
シヴァ神は様々な形で偶像化され、その形によって呼び名も異なる。
エレファンタ島の色んなシヴァ神
第1窟には、以下の地図の通り、9つの彫刻(①~⑤、⑦~⑩)と1つの寺院(⑥)がある。
①マハヨギ(Mahayogi)
第1窟正面の入り口から石窟に入って左側に見えるのが「マハヨギ」としてのシヴァ神だ。
マハ(Maha)=偉大なる
ヨギ(Yogi)=ヨガの実践者
その名の通り、ヨガ修行者としてのシヴァ神の姿で、ヨギスワラ(Yogisvara)ともいう。
シヴァ神は蓮の花(ロータス)の上に座り、目を閉じてパドマーサナ(蓮の花のポーズ)をしながら深く瞑想する様子が描かれている。
損傷状態がひどいにも関わらず、力強い胸と沈黙を秘めた顔が、精神の強さと静寂さをよく表している。
蓮の花の茎は、海の守り神である2体のナガ(蛇)に支えられて太古の水から伸びている様子を示す。
シヴァ神の頭上では神々たちが美しく舞い、左側には白鳥に乗ったブラフマー神と象に乗ったインドラ神、右側にはガルーダに乗ったヴィシュヌ神がいるのだが、損傷が激しいためによく見ることができない。
②ナタラジャ(Nataraja)
第1窟正面の入り口から石窟に入って右側に見えるのが「ナタラジャ」としてのシヴァ神だ。
ナタ(Nata)=踊り
ラジャ(Raja)=王様
その名の通り、踊りの王としてのシヴァ神の姿で、宇宙の舞いを踊りながら宇宙を破壊しては創造している様子が描かれている。
保存状態は良い方に入るが、彫刻の下半身は損失している。
シヴァ神は多くの神々に囲まれており、左側には、シヴァ神の息子であり象の顔を持つガネーシャとをはっきりと見ることができる。
ガネーシャの下には、ガネーシャの弟で戦いの神であるクマーラ、ガネーシャの右上には白鳥に乗ったブラフマー神が見える。
右側には、シヴァ神の妻であるパールヴァティー神、その上にはガルーダに乗ったヴィシュヌ神がいるが、両方とも破損している。
③サダシヴァ(Sadashiva)
正面の入り口から入り、奥の壁に向かってまっすぐ進むと、その目の前に高さ6メートルの巨大な3つの頭が現れる。
これが最高神シヴァの本当の姿、「サダシヴァ」としてのシヴァ神だ。
サンスクリット語で、サダ(Sada)は「Always(いつも)」や「Forever(永遠に)」を意味し、サダシヴァ=永遠に純粋で縁起が良いものとして認識されている。別名はマヘシャムールティ(Maheshmurti)。
3つの頭は、シヴァ神の3つの重要な側面を表している。
- 写真右側の顔
右側の顔は、女性の姿をしている。手には蓮の花を持ち、髪は数珠つなぎになった真珠と草花で飾られ、生命と創造を描いている。これは美の神であり創造を司る「ヴァマデヴァ(Vamadeva)」を象徴しており、ブラフマー神に似た側面だ。 - 写真中央の顔
中央の顔は、穏やかで優しい表情をしており、幾重もの首飾りが近郊の取れた力強い体に据えられている。頭の上に高い山のごとく結われた髪には豪華絢爛な冠が置かれている。これは調和を維持する「タトゥプルシャ(Tatpurusha)」を象徴し、ヴィシュヌ神に似た側面だ。 - 写真左側の顔
左側の顔は、口ひげを生やした若い男性で、死の象徴である頭蓋骨や蛇が髪に絡まっており、手にも蛇を持っている。これは破壊神としてのシヴァ神を表している。
シヴァ神を最高神として崇拝するシヴァ派のヒンドゥー教徒にとって、この3つの顔はすべてシヴァ神の顔であり、サダシヴァであるとされるが、ブラフマー神、ヴィシュヌ神、シヴァ神が一体となったトリムールティ(Trimurti)とも言われる。
サダシヴァの左側には④アルダナーリーシュヴァラ、右側には⑤ガンガーダラの彫刻がある。
④アルダナーリーシュヴァラ(Ardhanarishvara)
サダシヴァの左側にあるのが「アルダナーリーシュヴァラ」としてのシヴァ神だ。
この彫刻は、右半身(写真左側)がシヴァ神、左半身(写真右側)がシヴァ神の妻のパールヴァーティーの姿をしている。
男性と女性の合体像は神の一体を表現し、全てのものは元は一つであるということを意味し、ヒンドゥー教のシャクティ信仰のシンボルである。
性的エネルギー、つまり性交によるパワーのことで、女性神が司る。
彫刻は比較的よく保存されているが、下半身は破損している。牛のナンディー(シヴァ神の乗り物)に寄りかかり、手には蛇と鏡を持っている。
左側には白鳥に乗るブラフマー神と象に乗るインドラ神、彼らの下にはシヴァ神の息子であるクマラ神が描かれている。
右側にはガルーダに乗ったヴィシュヌ神、その前には水の神ヴァルナ、下には破損しているが美しい婦人たちが見える。
他にも多くのものが刻まれており、石窟寺院の中で最も手の込んだ彫刻のひとつである。
⑤ガンガーダラ(Gangadhara)
サダシヴァの右側にあるのが「ガンガーダラ」としてのシヴァ神だ。
この彫刻は、インド神話の場面で、天から落ちるガンガー(ガンジス川)をシヴァ神が自分の頭上で受け止めている様子を描いている。
ガンジス川の神話については、以下の記事でまとめています。
⑥シヴァ寺院とリンガ
第1窟の中央右側には、シヴァ神の寺院があり、東西南北4つの入り口には巨大な門番が立っている。
寺院内部には、シヴァ神の男根である「シヴァ・リンガ」が祀られている。
シヴァリンガの下にある台座は女性器(ヨーニ)を表しており、性交した状態を示している。
現在でもここで宗教行事が行われているそうで、真っ白のミルクでシヴァリンガを清め、これをシヴァの精液とパールヴァーティーの愛液として崇める。
これは「シヴァ神のリンガがパールヴァーティーのヨーニに挿入された状態をパールヴァーティーの子宮の中から見ている」ことになる。
⑦アンダカーンタカムールティ(Andhakantaka-murti)
第1窟の手前右角に見えるのが「アンダカーンタカムールティ」としてのシヴァ神だ。
この彫刻は、インド神話の場面で、魔王アンダカを退治しているシヴァ神の様子を描いている。
アンダカはもともと、シヴァ神とパールヴァーティー神の三番目の息子で、暗黒の闇から生まれた盲目の子供だ。その姿は大変恐ろしく、パールヴァティー神は息子を拒絶した。
魔族アスラの魔女ヒラニヤークシャは息子を授かることを祈って苦行に励み、シヴァ神は里子としてアンダカを預けることにした。
成長したアンダカは国王となった。彼のいとこが謀反を企てていることを知ると森にこもって厳しい修行に励み、苦行の末に母を結婚相手に選ばない限りは死なないという不死身の体をブラフマー神より与えられた。
数百万年後、アンダカの配下である3人の将軍は洞窟の中でシヴァ神とパールヴァーティー神に偶然出会った。将軍たちは彼らを神様だと気づかず、アンダカ王にふさわしい女性を発見したとしてアンダカに報告、アンダカはパールヴァーティー神を自分の母だと気づかず結婚を申し込んだ。
シヴァ神はこれを拒み、アンダカとの戦いが始まった。他の神々と魔王たちを巻き込み、戦いは何百年にも及んだ。シヴァ神は息子であるアンダカの胸に三叉矛(さんさそう)を突き刺して殺し、シヴァ神の勝利に終った。
シヴァ神が岩の中から現れ、恐ろしい形相で悪魔を突き刺しているところで、悪魔の体から流れ出る血を左手に持つ器で受け止めている。なぜならば、アンダカの血が地面に落ちると、そこからまた悪魔が生まれてしまうからだ。
シヴァ神は歯を剥き出し、髪の毛は頭蓋骨で飾られ、見開いた目は憤怒に満ち溢れている。
上方では神々が舞ってシヴァ神を称賛し、中心にはシヴァリンガが置かれている。下方は破損しており見ることができない。
⑧カルヤナースンドラムールティ(Kalyanasundara-murti)
第1窟の奥の右角、⑦アンダカーンタカムールティの反対側に見えるのが「カルヤナースンドラムールティ」としてのシヴァ神だ。
これは、シヴァ神と妻のパールヴァーティー神の結婚式の場面を描いている。
アンダカの場面とは対照的に、これは叙事詩のような穏やかさがあり、シヴァ神の顔は平穏と優しさに満ちた美男子に表現されている。
片方の手は腰に巻かれた厚い布の上に置かれ、もう片方の手はパールヴァーティー神を支えている。
パールヴァーティー神がシヴァ神の右側に立っているということは、結婚はまだしていないことを表す。新婦は結婚前には新郎の右側に立ち、妻になると主人の左側に立つ。
パールヴァーティー神の背後には彼女の父親がおり、恥ずかしがって伏し目がちのパールヴァーティーをシヴァ神の方に押している。
シヴァ神の足元(右下)にはブラフマー神が座っており、儀式を司る僧侶として表されている。
➈ラヴァナーヌグラハムールティ(Ravananugraha-murti)
第1窟の手前左角に見えるのが「ラーヴァナーヌグラハムールティ」としてのシヴァ神だ。
この彫刻は、インド神話(叙事詩ラーマヤナ)の場面で、魔王ラーヴァナがシヴァ神の座っているカイラサ山を持ち上げようと試みる様子を描いている。
ラーヴァナはランカー島(現在のスリランカ)を本拠地としてラークシャサ族を治める魔王で、ラーマヤナに出てくる悪役だ。ラーマヤナとは、主人公ラーマがラーヴァナに誘拐された妻のシータを助け出すお話。
物語のなかで、ラーヴァナはシヴァ神の住むカイラス山を揺らして罰せられる。のちに許してもらい「チャンドラハース(月の刃)」という剣を授かる。
傲慢で怪力のラヴァーナは山を揺さぶり持ち上げようとするが、シヴァ神は彼の左足の親指で地面を落とすと、山はまた元の位置に戻り、ラヴァーナはその下敷きとなっている。
シヴァ神は片方の手でパールヴァーティーを支え、もう片方の手で人々の髪をつかんで山から落ちないようにしている。
⑩カイラサ山のシヴァ神とパールヴァーティー神
第1窟の奥の左角、➈ラヴァナーヌグラハムールティの反対側に見えるのが「カイラサ山で暮らすシヴァ神とパールヴァーティー神」の彫刻だ。
カイラサ山に暮らすシヴァ神とパールヴァーティー神がサイコロゲームをしている様子を描いている。
シヴァ神の顔は傷ついており表情を読み取ることはできないが、ゆったりと優雅な姿勢で座っている。
一方、パールヴァーティー神は、サイコロゲームに負けたために顔を横に向けて座っており、不機嫌で怒ったふりをして、シヴァ神がズルをしていないか探そうとしている。
さいごに
エレファンタ島のシヴァ神の彫刻は、損傷が激しいものがあるものの、1500年以上も前に岩山を彫って作られたとは思えず、表現力あふれる彫刻は今にも動き出しそうな躍動感がある。
様々な姿のシヴァ神がいるので、インド神話にどっぷり浸かることができる。
インド神話を知らなくても、漠然と「すごいなぁ」と思うことはできるが、インド神話の知識があれば何十倍も楽しむことができる。
エレファンタ島は現地でガイドを雇うことができる。ガイド料金は人それぞれ提示される金額は異なるだろうが、英語ガイドなら500ルピー以内。
インド神話を知れば、インド旅行が楽しくなる!
この記事が、インドを旅行する方のお役に立てばうれしい限りです。
前編(エレファンタ島の行き方・見どころまとめ)も一緒に読んでね。
- シャンタラム
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- 地球の歩き方(2020~21)
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