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【ヒンドゥー教】どうしてガンジス川は「聖なる川」なのか?

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インドゆるゆる生活

タイトル画像(【ヒンドゥー教】どうしてガンジス川は「聖なる川」なのか?)

ナマステ、インド在住のKome(@chankomeppy)です。

ガンジス川(ガンガー)は、インドを象徴する聖なる大河で、川そのものが神格化されて崇められている。

バラナシのガンジス川沿いでは毎日何百人もの火葬が行われ、インドの死生観を目の当たりにすることができるとして、世界中から多くの旅行者が訪れる。

私も学生時代に初めてインドを旅行した際に、バラナシを訪れた。

ガンジス川が神聖な川で、ガンジス川があるバラナシはヒンドゥー教の聖地であるということは知っていたが、「どうしてガンジス川は神聖なのか」、背景をよく理解しないで訪れてしまったので、今思い返せば、表面的なものを見るだけの旅行になってしまった。(インドの場合、表面を見るだけでも十分刺激的で楽しいんだけどね)

しかしその背景を知っていれば、異なる角度から見ることができたり、さらに深いところまで見ることができる。

というわけで、ガンジス川が神聖とされる由縁についてまとめてみた。

バラナシやリシケシなど、ガンジス川が流れる地域に行く前に知っておきたいプチ情報

▼目次はこちら (クリックして表示)

ガンジス川(ガンガー)とは?

ガンジス川(Ganges River)とは英語での名称で、インドの言葉(サンスクリット語・ヒンドゥー語)ではガンガー(Ganga)と呼ぶ。

冒頭に書いた通り、ガンジス川は神聖視されており、女神「Gangamataji(ガンガーマタジ)」=「母なるガンガー」として崇められてる。

ガンジス川が断崖から河谷へと出るリシケシ、平原へと出るハリドワール、ヤムナー川と合流するイラーハーバード、ガンガーが南から北に流れる唯一の場所であるバラナシ等々、ガンジス川流域にはヒンドゥー教の聖地が数多く存在する。

リシケシのガンジス川
リシケシのガンジス川(2017年4月撮影)

バラナシのガンジス川
バラナシのガンジス川(2011年3月撮影)

ガンジス川が流れる地域

ガンジス川は、ヒマラヤ山脈からインド北東部にかけて流れる全長2525kmの大河だ。

北海道(札幌)から沖縄(那覇)までの直線距離が2500km程度なので、ガンジス川がどれだけ大きいかは容易に想像できる。

ヒマラヤ山脈の南麓ガンゴートリー氷河から流れ出た雪解け水を源流とし、バギーラティー川(紺色部分)アラクナンダー川(紫色部分)が合流した地点より下流側がガンジス川(青色部分)と呼ばれている。下流域では多くの分流をつくり、代表的なものとしては、バングラデシュに流れるパドマ川(海色部分)とコルカタ付近を流れるフーグリー川(緑色部分)がある。

ガンジス川の歴史

十六大国の位置
紀元前600年の十六大国の位置(出典:十六大国 - Wikipedia

ガンジス川は古代インドの発展を支え、ガンジス川流域を中心に古代インドの国々が成立・発展した。

紀元前1500年頃、遊牧民族のアーリヤ人はインド北西部に侵入し、原住民に稲作の技術を学んで牧畜生活から農耕生活への移行を進め、ガンジス川に沿って居住地を拡大して、紀元前800年頃にはガンジス川下流にまで進出した。

上の画像は紀元前600年の古代インドに存在した十六大国の地図である。水色で示したガンジス川の流域では豊かな農業と牧畜による生産能力に支えられて経済・文化は発達し、マガダ国やコーサラ国をはじめとする多くの国が成立した。

古代インドの発展はガンジス川なしでは成立せず、ガンジス川の恵みによって発展したとも言える。

この時代、自然によってもたらされた様々な現象は神の力によるものだと考えられていた(ヴェーダ信仰)。ガンジス川の恵みも「神の力」によるものだと信じられ、崇拝の対象となったのだと考えられる。

紀元後4世紀から6世紀にかけてガンジス川流域を統一したグプタ朝の時代に、バラモン教の教えに土着信仰が融合してヒンドゥー教が興り、シヴァ神やヴィシュヌ神といった新しい神様が台頭して現在のヒンドゥー教が体系化された。

そこで、自然崇拝の対象であったガンジス川と、ヒンドゥー教の神様が融合して、ガンジス川の神話が誕生した。

ガンジス川の神話

「母なるガンガー」と言われるているように、ガンガーはガンジス川の女神だ。ヒンドゥー教の神話では、三大神シヴァの奥さんであるパールヴァーティーの妹という設定になっている。

叙事詩「ラーマーヤナ」には、天界を流れていたガンジス川が地上に降りてくる物語(ガンガーの降下)が収められている。

物語のざっくりとした内容は以下の通り。

ガンガーの降下

昔々、バギーラタという王様がいた。バギーラタ王は、賢者の怒りにふれて焼き殺されてしまった先祖を供養する必要があった。焼き殺された祖先の数は6万人にのぼり、遺灰となって地中深くに埋められている。普通の水では浄化できないので、ガンガーの神聖な水を必要とした

ガンガーは天界を流れている川なので、地上に降りてもらわなければいけない。そこで、バギーラタ王はヒマラヤの山中で苦しい修行を積み、ガンガー降下の許可を得た。

しかし、ここで一つ問題が発生。ガンガーの川の水を天界から地上にそのまま流すと、地上が破壊するほどの衝撃だという。地上を破壊せずにガンガーを地上に降ろせないものか…

そこで天界と地上の間に、シヴァ神がクッション役として入ることになった。天界から流れ出る水はシヴァの頭で受け止められ、シヴァのカラダを伝ってヒマラヤの山中に注がれた

地上に流れ出たガンガーはバギーラタ王の先導に従って地上で7つの流れに分かれ、これらはガンジス川の支流となったという。ガンガーは地中深くに埋まる先祖の遺灰の上を流れ、6万人の先祖の遺灰は浄化され、魂は供養されて天国へ昇ることができた

もっと詳しく!
【ヒンドゥー教】母なるガンガーの神話 ~ガンジス川はどのようにしてできたのか?~

神話のポイントは2つ。

  1. ガンガーの水は、シヴァ神のカラダを伝って地上に注がれたこと
  2. ガンガーの水を以て、バギーラタ王の祖先の魂が救われたこと

ガンジス川が神聖な理由

ガンジス川が神聖である理由は、神話に基づいて以下のように考えられている。

理由①:シヴァ神の体に触れた水が流れている

バラナシのガンジス川で沐浴する男性
バラナシのガンジス川で沐浴する男性(2018年5月撮影)

ガンジス川を流れる水は、シヴァ神の体に触れた神聖な水だ。

シヴァ神

シヴァ神の髪の毛から飛び出しているのはガンガーの水だよ。

そのため、ガンジス川の水には特別な力があると信じられている。

  • ガンジス川の水一滴であらゆる穢れを浄化する
  • ガンジス川で沐浴すると全ての罪が浄められる
  • ガンジス川の水でどんな病気も治る
  • ガンジス川の水は決して腐ることがない

ガンジス川で沐浴をしたり、ガンジス川の水を体に塗ることで、シヴァ神の神聖なパワーの恩恵を受けることができる。

沐浴は祈りを捧げながら頭のてっぺんまで3回浸かることが望ましいが、水に入ることができない場合は少量の水を頭からかけるだけでもOKらしい。

川の近くの露店やお土産屋さんでは「ガンガージャリー」や「ガンガーパニ」と呼ばれるガンジス川の水が入った壺が売られており、巡礼者が家族や親しい友人、自分へのお土産として購入する。ガンジス川の水は腐らない(ことになっている?)ので、お土産としてガンジス川の水を持ち帰れば、巡礼後もお家でガンジス川の神聖なパワーの恩恵に与ることが可能だ。

ガンジス川で沐浴

ガンジス川を訪れるなら沐浴したい!と思う人もいることだろう。インド人と同じように沐浴することで同じ気持ちを味わいたい、ネタにしたい、等々・・・沐浴したい理由は人それぞれだ。

ガンジス川の水源はヒマラヤ山脈の雪解け水であり、上流部の水は透明度が高く綺麗だ。リシケシやハリドワールといったガンジス川上流部では、水は透き通りひんやりとして気持ちがよい。

しかし、中流部にもなると川の水は生活・工業用水や火葬の遺灰や水葬の死体、ゴミなどで汚染されており、安全に沐浴ができる水質ではないと断言できる。

リシケシのガンジス川
上流部:リシケシのガンジス川(2017年4月撮影)

バラナシのガンジス川
中流部:バラナシのガンジス(2011年3月撮影)

上の画像はリシケシ(上流部)とバラナシ(中流部)の水質を比較したものだ。水質の違いが一目で分かる。

私はリシケシのガンジス川で泳いだことがあるが(沐浴ではない)体調に全く問題はなかったし、一緒に泳いだ人達の中で体調を崩している人は一人もいなかった。

バラナシに関しては、学生時代に沐浴する気満々で訪れたが、あまりの水質の悪さにたじろいでしまい、結局太ももまで浸かったところで諦めてしまった。のちに、全身浸かっていないにも関わらず体調を崩したという旅行者に出会った。その人は膝までしか浸かっていないのに高熱が出たそうだ。足の傷口から体内に菌が入り込んだことが原因だったという。

私はバラナシのガンジス川で沐浴しなかったことについて全く後悔していない。むしろイキって沐浴しなくてよかったと思っている。仮に沐浴をして体調を崩してしまった場合、その後のスケジュールに支障が出てしまう。体調を崩して寝込んだり、入院したりしても問題ないくらい滞在日数に余裕があるなら話は別だが、滞在日数が限られている場合はそれなりの覚悟を必要とするだろう。

理由②:輪廻から解脱して天国に行ける

バラナシのガンジス川
バラナシのガンジス川沿いの火葬場、マニカルニカガート(2018年5月撮影)

ヒンドゥー教には「輪廻転生」の思想があり、生前の行いによって次に生まれる世界が決まるとされている。

輪廻は永遠に続き、次にどんな世界に生まれ変わるのかが分からないので、輪廻の世界は「苦しみ」だ。

しかし、輪廻から抜け出すための方法がある。

それが「ガンジス川に遺灰を流す」ことだ。

ガンジス川の水によってバギーラタ王の先祖の遺灰が浄化されて天に昇ったように、ガンジス川に遺灰を流せば輪廻の苦しみから解放されて天国に行くことができ、永遠の幸せを手に入れることができると信じられており、年間何万人もの死を待つ人たちが、ガンガーに遺灰を流されるために片道切符でバラナシにやって来る。

上の写真の左側に写っている黄色・ベージュのような印洋折衷の建物は、かつて「死を待つ人の家」だったそうだ。

イギリス植民地時代の19世紀、死の直前にガンガーへと連れてこられた人々は、何のケアもなく川岸のガートや粗末な小屋に放置されて死を待っていた。これを見たイギリス人は「これはガートでの殺人だ!」と批判し、ガートに病人を遺棄することを禁じる法律ができたのだが、法律ができた後も死を待つ病人はガートに運ばれ、放置され続けた。

輪廻思想によりガンジス川に流されたいインド人。病人がガートに放置されることを阻止したいイギリス人。ヒンドゥー教の死生観と、近代的な衛生概念が混ざり合った結果、20世紀初頭に「死を待つ人の家」ができたのだ、とバラナシのガートに座っていたおじさんが教えてくれた。

人生の最後は家族や大切な人と過ごすのではなく、輪廻からの解脱を目指してガンジス川で神様に寄り添う、、、

ヒンドゥー教徒の死生観は私たち日本人とは大きく異なる。

死生観の背景となる輪廻思想については以下の記事にまとめているので、あわせてご確認ください

もっと詳しく!
【インド哲学】輪廻(りんね)を分かりやすく解説 ~インドの輪廻思想と宗教~

ヒンドゥー教徒の葬儀(火葬)

バラナシのガートに火葬場があることからも分かるように、ヒンドゥー教徒の葬儀は火葬が一般的だ。死後お墓に入ってしまうと霊魂がお墓から出られず天に昇ることができなくなるため、ヒンドゥー教徒はお墓を持たない。かつてプーリーの火葬場を訪れた際に、火葬の手順について教えてもらったので紹介する。

通常、死期が近づくとバラモンを招いて生前の罪滅ぼしのための儀式が行われる。亡くなると死神がいると信じられる南の方向に向かって祈り、24時間以内に火葬が行われる。

白い布で包まれた遺体は、竹で作られた担架に乗せられて屋外の火葬場に運ばれる。親族全員でガンジス川、またはそれに相当する聖水を遺体の口に含ませ、マントラを唱えながら遺体の全身に聖水をふりかける。

遺体は火によって浄められ、霊魂は天に上り、肉体は火の神アグニ(バラモン教時代に人気のあった神様)に捧げられる。火葬が済むと聖水で火が消され、遺灰は川や海に流される。

北インドの場合は、家族の長である男性がハンドキャリーで遺灰を最寄りのガンジス川に持ち込むそうだ。先祖代々、何代にも渡ってお願いしている遺灰業者がいるようで、遺灰を流す場所も決まっているという。まるでガンジス川がヒンドゥー教徒にとってのお墓であるかのようだ。

火葬では、死体に触ると「死が伝染する」と信じられているので、死体に直接触ることができるのは不可触民のみだ。バラナシでは葬儀ビジネスで裕福な不可触民もいるという。

火葬に使う薪の質と量は、「葬儀にいくらお金を出せるか」によって決まる。裕福な家庭は、高級な白檀の薪、貧しい家庭は安いマンゴーの薪や馬糞を使う。十分な薪を買うことができなければ、遺体の一部が燃え残ってしまい、そのまま水に流されてしまう。結局、死後に解脱して幸せになれるかどうかは金次第ということだ。

火葬されない人もいる

ヒンドゥー教徒でも火葬されないケースもある。

聖職者と2歳未満で亡くなった幼児は、火葬されずに埋葬される。彼らの魂は「穢れ(けがれ)がないので火で浄化する必要がない」ためだ。

犯罪者や自殺者も土葬される。彼らの場合は「火では浄化できないほど穢れている」ためである。

交通事故で変死した人や蛇にかまれた人、幼児、妊婦は、水葬される。「己の命を全うしなかったために輪廻(or 解脱)の機会を与えられない」という理由による。

また、火葬の薪が足りずに十分に火葬されなかった遺体も最終的に水葬される。水葬の場合、解脱できず、涅槃ねはんに到達することができないため、火葬に比べて嘆き悲しむ親族が多い。

バラナシが聖地である理由

ガンジス川沿いの聖地はいくつもあるが、その中でもバラナシは特に神聖な場所と考えられており、「ガンジス川」=「バラナシ」というイメージが根付いている。

なぜバラナシだけがズバ抜けて聖地扱いされているのか、その真相は謎だがいくつかの説は存在している。

バラナシが聖地である理由(説)
  1. バラナシは5つの河川が合流する場所であるから
    ヒンドゥー教では川の合わさる場所は神聖な場所として崇められる。

  2. 紀元前5~6世紀に十六大国で最大勢力のカーシー王国の首都だったから
    バラナシはガンジス川中流域の政治・経済・文化の中心地となり、光あふれる国と呼ばれていた。また、バラモンが修行する宗教的な拠点でもあった。

  3. ガンジス川の中でバラナシは唯一南から北に流れる場所だから
    ガンジス川が天に昇っていくイメージを抱く。

理由はなんであれ、バラナシは数千年以上も輪廻転生の舞台として、ヒンドゥー教徒たちの死を飲み込んできた。バラナシの火葬場の火は何百年も途切れることなく燃え続けており、町のために火葬場があるのではなく、火葬場のために町がある。

「輪廻転生の町」として、バラナシは一種のブランドのようなものなんだろうね。ヒンドゥー教徒ではないので知らんけど、なんとなくそんな感じがする。

さいごに

ガンジス川はもともと天界を流れていた美しい川で、シヴァ神の体を伝って地上に注がれた。

その川の水は、一滴であらゆるものを浄化し沐浴すれば全ての罪が浄められ遺灰を流せば輪廻から解脱できるという、非常に万能でスーパーミラクルな水で、まるで魔法の水のようだ。

効能うんぬんを抜きにして、神様の体に触れた水というだけで可也アツく、シヴァ神を強く信仰するシヴァ派の信者にとっては激アツなのだろう。

私はかつて熱心なジャニオタだったので、その気持ちが分かるような気がする。自分の担当しているメンバーが触ったものを触りたいと強く思っていた。私はKAT-TUNの亀梨担当だったが、亀ちゃんがコンサートで投げたボールとかタオルとか欲しいと思ったよね、そういうことだよね。(絶対にそういうことじゃない)

話を戻して、最後にガンジス川が神聖とされる由縁についてまとめる。

ガンジス川が神聖とされる由縁
  • あらゆる穢れや罪を洗い流してくれる
  • 天界と地上界をつないでいる

インド国歌の歌詞の中にも「ガンジス川」は登場し、ガンジス川はインド人にとって特別な存在であることがうかがえる。日本人にとっての富士山のような存在なのかもしれない。